さし寄せし暗き鏡に息白し
枯蔓の抱きたる實を失く居り
枯蔓のふときところで切れてなし
靴紐をむすぶ間も来る雪つぶて
雪降りし日も幾度よ青木の實
足音のいつかひとつに雪の道
牡蠣むきの殻投げおとす音ばかり
上の子やみづからかくる吸入器
歳晩の人の流れに洗ひ髪
山の土麦の芽出でて畑となる
馬が待つ雪の積荷のまだなかば
ひとりでに子は起き橇は起こさるる
信号機青のまにまに雪の貨車
夕焼けてなほそだつなる氷柱かな
雪嶺に汽車あらはれてやや久し
雪掻きし市内に来り橇難渋
咳の子のなぞなぞあそびきりもなや
書いて見す数字が下手や日向ぼこ
ここのまた吾子の鉛筆日脚伸ぶ
遮断機のあがれば子供夕時雨
時雨るるや水をゆたかに井戸ポンプ
子等のものからりと乾き草枯るる
風邪の子や団栗胡桃抽斗に
道暮れぬ焚火明りにあひしより
寒鮒の跳ねてきまりし棹秤