寒き灯の大玄関はやや明かく
霙るると告ぐる下足を貰ひ出づ
子を見舞ふ飢も寒さも父告げで
うすうすと届く灯影の落葉かな
わが部屋に湯ざめせし身の灯を點もす
かへりみて風邪のぬけたるばかりかな
年惜しむ梅に訪はむと告げしのち
大いなる凍てのかなたへ降り立ちし
春待つや掃除身支度かひがひし
行くほどに霜どけ径や日脚伸ぶ
昃りしざわめき起きぬ枯木立
鴨打ののつと加はる夜汽車かな
うとうとと獲物の鴨にまどろめる
冬鏡子を嫁がせし吾がゐし
寒燈もすぐに消したる身一つに
母我をわれ子を思ふ石蕗の花
歳晩の月の明さを身にまとひ
見えずなる千鳥はやさし返し来る
走り寄り二羽となりたる千鳥かな
麦の芽にここも人里寒鴉
寒燈や面影も似る文字も似る
炭おこり来るひとすぢのあたたかさ
北風をくぐれる水の早さかな
水仙を買ひ風塵にまぎれ行き
寒燈髪一筋の影も置く