和歌と俳句

中村汀女

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我に返り見直す隅に寒菊赤し

葭に集りぬ湖暮るる

ともあれと日向ぼこりに招じけり

夜の客に手探りに 引いて来し

血にじみし胼を見やれど濯ぎ居り

冬雨や襖に映る佛の灯

冬構戸口の石に炭を割る

布団の襟に睫毛こすりて覚め居たり

夕焚火映れる岸に着けにけり

枯葦を家鴨連れ出て舟出でぬ

落つ雨にすぐ掃きやめぬ石蕗の庭

落つる日のはなやぎを得し時雨窓

日向ぼこ汽笛が鳴れば顔もあげ

出でてゆく船とただ見て日向ぼこ

空に濃き船の煙や日向ぼこ

落葉風掃きとどむにはあらねども

あたたかや日向ぼこりのまたたきの

麦の芽に汽車の煙のさはり消ゆ

たらちねのもとの冬木のかく太り

冬座敷ときどき阿蘇へ向ふ汽車

うき草のよする汀や阿蘇は雪

水を出る刈藻まさをや冬麗ら

麦の芽に艪の音おこり遠ざかる

枯芭蕉草生ふ水のあたたかく

ながれゆく水草もあり冬日暮る