和歌と俳句

寒菊

寒菊や醴造る窓の前 芭蕉

寒菊や粉糠のかかる臼の端 芭蕉

寒菊や古風ののこる硯箱 其角

霜の菊杖がなければおきふしも 嵐雪

寒菊やしづがもとなる冬座敷 土芳

寒ぎくや垣根つゞきの庵の数 太祇

寒菊や茂る葉末のはだれ雪 太祇

寒菊や猶なつかしき光悦寺 召波

寒ぎくや四ツまで園の日のあたる 召波

かんぎくや更に花なきはなの後 暁台

寒菊や村あたたかき南受 子規

寒菊やここをあるけと三俵 漱石

寒菊やころばしてある臼の下 放哉

寒菊の小菊を抱いて今日ありぬ 亞浪

寒菊やつながれあるく鴨一つ 水巴

我に返り見直す隅に寒菊赤し 汀女

寒菊にいぢけて居ればきりもなし みどり女

寒菊やころがり侘びて石一つ 草城

弱りつつ当りゐる日や冬の菊 草城

寒菊の咲きかたまれる籬かな 風生

寒菊の霜を払つて剪りにけり 風生

ただ一本の寒菊はみほとけに 山頭火

寒菊にかりそめの日のかげり果つ 汀女

茶の花のちりしくところ寒菊の花 山頭火

むかへられてすはれば寒菊のしろさ 山頭火

寒菊に机のほとり栄えあれや 石鼎

寒菊は白き一輪狸汁 青邨

わが手向け冬菊の朱を地に点ず 多佳子

寒菊に憐みよりて剪りにけり 虚子

寒菊をえらみ剪る音一つ二つ 風生

寒菊や志士につらなる一女流 風生

寒菊や年々同じ庭の隅 虚子

寒菊にふれし箒をかるく引き 立子

冬菊のまとふはおのがひかりのみ 秋櫻子

冬菊は暮光に金の華をのべ 秋櫻子

寒菊に文字生きしまま灰の紙 静塔

薪を折る婆の強脛寒小菊 不死男

寒菊の臙脂は海の紺に勝つ 風生

寒菊や母のやうなる見舞妻 波郷

寒菊やすでにわれらは夜にまぎれ 汀女