芥子咲くやけふの心の夕映に
誘蛾燈照らすかぎりは浮葉のみ
誰が持ちし硯ぞ今日をわが洗ふ
はかどらぬ稿や夜明の蝉ひとつ
稿成りし机を拭けよと朝の蝉
空蝉と手にとり見れば蝉こもる
蕎麦打つや大暑の昼餉すべなくて
吹かれては波よりしろし秋の蓮
野萩うつ驟雨のひまを見て帰る
ひとの母の嘆きに秋の驟雨また
鰺の鮨つくりなれつつ鳳仙花
芭蕉うつ風があくびを奪ひ去る
濁り江の潮どきかなし秋祭
秋深く歯にしむ柿と思へども
膝冷えてねむれざりしが秋日和
草紅葉はかなきものに入日映ゆ
菊の香や鮒の魚拓のまだ濡れて
菊日和いねて寝不足をとりかへす
夜を咳けば昼はねむりつ菊日和
茶が咲きぬ素足が冷えぬおのづから
冬菊のまとふはおのがひかりのみ
冬菊は暮光に金の華をのべ
西晴れてぬれたる石に冬の百舌鳥
ふもとにて笹鳴きゐしが鵯の寺
茶の花にいまありし日が山の端へ