馬酔木野をたまたまよぎる鹿かなし
一隅に朝日さしたる野の馬酔木
蒲公英や旅は陶見るゆとりなき
厨子の前千年の落花くりかへす
川原寺あはれ陽炎ひて野に低き
岡寺の霞ふかきを見て登る
木蓮の白光薫ず池のうへ
野に巨き石ゆゑ蝶も越えなやむ
草萌えてわづか染めける石の裾
春草の墳は香具山を北に負ふ
うらゝにて雲雀はしれる墳の前
石棺に木瓜咲き添へば去り難し
木瓜の朱は匂ひ石棺の朱は失せぬ
川波の霞むを見れば疾く流る
早瀬波わたる蝶あり溺れつつ
浦安を這ふ雲くらし花の雨
雨に獲し白魚の嵩哀れなり
白魚舟枝川戻る蘆の角
木々の香にむかひて歩む五月来ぬ
丘に見て幟立つ家の十あまり
今日の山雲よりいづる鯉幟
時鳥野に甘藍の渦みだれ
人ふたりへだつ林や梅雨の蝶