和歌と俳句

水原秋櫻子

機織る灯月祭る灯と窓を染む

冷ゆるよと雨月の羽織とりいだす

厚き雲のべて十六夜の空明し

十六夜が夜半の襖に照りにけり

寝待月灯の残れるは我家のみ

山田とて稲を刈り干す岩多し

重陽の四山の雲に蕎麦を打つ

重陽の栗を琥珀の珠と煮たり

網かけて蓼の折れ伏す川貧し

山越ゆるいつかひとりの芒原

くれぬ否み難くて手にしたり

紙を干す山家のわざも菊日和

淵の上に麦蒔いでて空澄めり

裾ながき紅葉見あげて峰の雲

柿の邑利根の青波ひろらなり

谷川岳沖の耳とぶ時雨雲

吊橋に木の葉高舞ふ夕時雨

晩稲掛けいまはとむべき径もなし

夜明けぬと懸巣が騒ぐ山紅葉

山紅葉明けて一天瑠璃なりき

谷川岳天そそる巌の雪被たり

雪の岳四山紅葉を競ふ上に

雪の岳空を眞青き玻璃とする

雪の岳天飛ぶ雲の触るるなし