院の址何にもとめむ冬すみれ
残菊や猛き犬吠ゆ谷戸の家
草赤し林しぐるる奥にして
崖の上に冬青空は壁なせり
崖攀ぢて奈落に見たる冬の海
濁みごゑの親しき鴨や今朝下りし
鴨下りて鳴けばうなづく枯蓮
鴨の水あさし紺碧にかゞやけど
羽子売れり闘病のものを売る店に
羽子の音いづこぞこゝは磯なるに
せわしなき人やと言はれ屠蘇を受く
書初の筆洗ひをり鵯鳴ける
獅子舞の入りゆく槻の一構
干鮎の鰭ほろほろに寒の入
寒苺われにいくばくの齢のこる
雹のあと蘂眞青に梅こぼれ
焦土の石積みて初午の祠とす
焦土にて初午の鰈供へある
初午の幟こぞるは機屋らし
暮雪飛び風鳴りやがて春の月
水掻の朱がひた濡れて春の鴨
麦生もて塗りつぶす隅に桃咲けり
春禽の瑠璃の羽立てて嘴曲ぐる
アネモネのむらさき濃くて揺らぐなし
浮雲の影あまた過ぎ木瓜ひらく