和歌と俳句

屠蘇

元日や花咲春は屠蘇の酒 杉風

屠蘇雑煮かくてあらまし桜まで 野坡

とそ酌もわらじながらの夜明哉 一茶

古妻の屠蘇の銚子をささげける 子規

甘からぬ屠蘇や旅なる酔心地 漱石

金泥の鶴や朱塗の屠蘇の盆 漱石

屠蘇臭くして酒に若かざる憤り 虚子

小さなる屠蘇の杯一つづつ 鬼城

晶子
くれなゐの小き杯たまはれば椿の花のここちして取る

屠蘇注ぐや袂の隙に炭赤し 汀女

草庵や屠蘇の盃一揃 石鼎

折蝶の髭の見事や屠蘇一器 石鼎

屠蘇の酔ひ男の顔のうるはしき 淡路女

屠蘇重し軽き朱金の酒杯に 草城

そぞろ園に下りたつ屠蘇の主かな 石鼎

金銀や屠蘇の銚子の蝶の髭 石鼎

白秋
ゐずまひに眼先貴なる杯やとよりと屠蘇の注がれたるかに

白秋
汝兄今は屠蘇も召さぬかあはれよと母嘆かすやしづけき我を

母がりの屠蘇の美ましとうけ重ね 夜半

屠蘇の座のその子この子に日がさし来 知世子

しなだれて眼をつむりゐる屠蘇の酔 草城

次の子も屠蘇を綺麗に干すことよ 汀女

せわしなき人やと言はれ屠蘇を受く 秋櫻子

舌の先屠蘇に触れたるばかりにて 草城

屠蘇酌みて温故知新といふ事を 虚子

仰向けの口中へ屠蘇たらさるる 草城

古を恋ひ泣く老や屠蘇の酔 虚子

屠蘇くむや流れつつ血は蘇へる 楸邨

頽齢の舌にとろりと屠蘇甘し 風生

かくぞとて幼なに持たす屠蘇の杯 汀女

屠蘇祝ぎて米壽とはそらぞらしけれ 風生

やすらかな天上に屠蘇酌み給へ みどり女

一齢をまた偸みたる屠蘇祝ふ 風生

この一齢を生き疲れたる屠蘇祝ふ 風生

屠蘇の座に遠山脈も加はれり 林火

屠蘇ふふみ喜寿うべなうてばかりかな 林火