乾鮭も空也の痩も寒の内 芭蕉
薬のむあとの蜜柑や寒の内 子規
佐渡振りを賑ふ臼や寒の内 碧梧桐
美食して身をいとへとや寒の内 鬼城
灯ともるや寒の内なる青畳 草城
牛乳うまし寒の入日の雲染めて 鴻村
寒の内まくらのにほひほのかなる 蛇笏
寒中や柴の蟲繭あさみどり 蛇笏
絨毯にフラスコ転び寒の内 蛇笏
雨音もさすがに寒はさまざまな 石鼎
寒中の画房花満つ陶壺かな 麦南
寒といふことばのごとくしづかなり 素逝
三星の南廻りや寒の内 波郷
瑞の菜の三畝ばかりや寒の内 波郷
痩せし身をまた運ばるる寒の内 波郷
ひきかぶる衾みじかし寒の宿 波郷
屋根裏に寒の朝日の黄金なす 波郷
蕗の薹寒のむらさき切りきざむ 多佳子
釘うてばひゞく身内を寒と言はむ 綾子
寒の空ものゝ極みは青なるか 綾子
針の錆みがくや寒も間なく明く 綾子
死者を語りて銭得し者も寒の内 波郷
夕凪の雲美しく寒の果て 石鼎
入日雲魚にかも似て寒をはる 秋櫻子
寒の中コンクリートの中医師走る 三鬼
硬き土みつめて寒の牛あるく 三鬼
われ泣くもいとしむことも寒の闇 蛇笏
寒の内光るかまちに家の責 蛇笏
湿地帯寒のサイレン尾を曳きずる 三鬼
寒といふ文字の一劃一劃の寒さ 風生
乾坤に寒といふ語のひびき満つ 風生
小鳥の巣ほどけ吹かれて寒深む 三鬼
寒の雨東京に馬見ずなりぬ 三鬼
影過ぎてまたざらざらと寒の壁 三鬼
野良犬とわれに紅血寒の浜 三鬼
悔と言ふ語音短し寒長し 不死男
ひさかきの実の黒曜も寒の内 風生
波打つてくる松風や寒の内 波郷