むつかしき辭表の辭の字冬夕焼
空谷に榾折る音を起しけり
居士の眼をどこかに惧れ絲瓜枯る
極月の翳の大きくかぶさり来
桑枯れて篁畔雪をとどめたる
沼舟に錠をおろして蘆萩枯る
冬青き篁も温泉の国なれば
寒燈や岩屋造りに御内陣
涸滝に懸かる氷柱も利剣なす
着ぶくれて憎まれ口はつつしまむ
観ずれば一些事なれど霜の声
人を怒る心すぐ萎え寒夕焼
冬三日月ひとと機窓に深空航く
綺羅星を地に覆へす冬燈
冬燈もて鏤めて燈の海とせる
山姥の杖もや触れて散紅葉
寒といふ文字の一劃一劃の寒さ
乾坤に寒といふ語のひびき満つ
寒雀顔見知るまで親しみぬ
寒雀今朝は雪よと樋鳴らす
一塊の毬藻を生くる寒の水
せんだんに掛大根して故郷の駅
極月の萬両あかき微恙かな
冬めきて木の国の山且つ青き