風邪の妻きげんつくりてあはれなり
白菜に人参を横たへて赤し
枯山にはりつけてある麦畑
あたたかき十二月なりひまにも馴れ
大寒と敵のごとく対ひたり
銀杏落葉街よごれ人の顔風邪よごれ
枯るる山畦より狭き田を畳めり
静かなる起居の塵や冬座敷
大寒のただ中にある身の廻り
大寒の雲厳かに夕焼けたる
悴みて心ゆたかに人を容れ
凍土をなほ縛むる木の根かな
着ぶくれて固く己を守りけり
着ぶくれて老の眉目のなほ秀づ
枯蔓の引かれじとする力かな
茶の木咲き門坂琴をおくごとし
冬濤はその影の上くつがへる
冬至の日しみじみ親し膝に来る
勿体なき炬燵してあり翁の忌
観音経あがり桃青霊位かな
御燈明穂長に芭蕉霊位かな
勿体なき小春日和や翁の忌
芭蕉忌や羽紅の役の一作者
家並欠け葱畑の上に鳰の湖
時雨るると袖うちかざしよろこべる