和歌と俳句

富安風生

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火をかけてすずかけ落葉すぐになし

雑炊に舌をこがして勿体なし

枯菊を剪るうす埃あがりけり

伏葱に紅葉かつ散る庵あり

笹鳴に青木ばかりの狭庭かな

笹鳴や御所の御庭にそひゆけば

寒菊をえらみ剪る音一つ二つ

寒菊や志士につらなる一女流

よせ鍋やみな一芸のつかさにて

かけ流す神の一軸寒げいこ

凍鶴の羽うちしことをかへりみる

この冬をここに越すべき冬仕度

この宿に思ひかけなや年惜しむ

なつかしき炬燵蒲団の木綿縞

老妻のつづくりしものを着ぶくれて

放送の落語に笑ひ風邪籠

折りもてるものをかざして時雨れけり

柴漬にすがりてあがるものかなし

天井にはりつき灯る冬灯

冬日かげ幹はひのぼり失せにけり

冬渚潮汲むことをくり返し

一翳の雲ゆゑいよよ小春

冬の蝶人に見られてあがりけり

麦の芽の没るる雪の敷きにけり

水仙や師へおとづれは墨もてかく