和歌と俳句

冬の日

片頬に冬日ありつつ裏山へ 虚子

どこやらに急に逃げたる冬日かな 虚子

倶利伽羅の西にまはりし冬日かな 普羅

冬日かげ幹はひのぼり失せにけり 風生

冬の日を鴉が行つて落して了ふ 多佳子

冬の日や玉のまどかにわがいのち 草城

冬の日や河床にまがふ道の澄み 林火

双の耳張りてさかしげ冬日の牛 林火

赤松のはづれの幹の冬日かな 林火

冬日うけみなかがやける子供の頭林火

ただ焦土冬日を落す屋根もなし 楸邨

焼跡の幾日冬日燃えざるや 波郷

冬日燦焦土の石階雪白に 波郷

冬日遅々仔馬が牛の角なめて 草田男

冬の日の沈むを惜しむ われのみか 立子

濁る冬日土手に鴉をつどはしむ 林火

冬日得てぐみ朱ければ海忘れ 林火

杭のごとく冬日の面に人立てり 楸邨

病めば倖手のとどく邊に冬日ざし 波郷

冬日ぬくし焼跡に暫し跼みをり 波郷

やはらかき餅の如くに冬日かな 虚子

吾子の頬や冬日の墓の犇きて 波郷

冬日の妻よ吾に肋骨無きのちも 波郷

冬日満てる月桂樹まで歩きだす 波郷

冬日の吾子少年少女たる日までは 波郷

希望は褪せぬ冬日にかざす痰コツプ 波郷

冬日低し吾と子の間妻急がん 波郷

頂は見えぬ赤松冬日沁む 波郷

冬日低し鶏犬病者相群れて波郷

師よりの金妻よりの金冬日満つ 波郷

冬の日や臥して見あぐる琴の丈 節子

大空の片隅にある冬日かな 虚子

我が前の畳を這へり冬日影 石鼎

去るものは追ふによしなき冬日かな 万太郎

緑竹に蒼松にある冬日かな 虚子

山並の低きところに冬日兀 虚子

冬日見え鴉かたまり首伸ばす 三鬼

冬日没す庭愕然と木木立てり 立子