和歌と俳句

石田波郷

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降るや襖をかたく人の家に

冬薔薇色のあけぼの焼跡に

侘住めば楪しやや紅し

焼跡の夜火事の雲や押しこぞり

焼跡の大道夜火事押照らす

寒の白き馬居り昨夜の焼跡に

焼跡に仰げば寒の雁か

寒の鵙墓犇きてあるばかり

束の間や寒雲燃えて金焦土

病めば倖手のとどく邊に冬日ざし

冬菊挿す妻の言中の人幾人

障子冷たしひそめひそめし友の聲

妻よわが短日の頬燃ゆるかな

冬鵙の聲を断ちたる脈迅し

霜の菊幸福は誰もねがはぬか

冬日ぬくし焼跡に暫し跼みをり

氷の上蹄鉄あかし突きささり

牛の息ひろがり白し野の音楽

百千の墓冬空の食入れる

病む師走何の曲にかなぐさまむ

敷ける雪金三日月に染まるらむ

糞るや父母遠き年の暮

見廻せど蒲團ばかりや我も病む

寒き手やいよいよ恃むわが生きて

新聞なれば遺影小さく冴えたりき

嘆かへば熱いづるのみ年の暮

遠く寒く病弟子われも黙祷す

死者を語りて銭得し者も寒の内

砂町は冬木だになし死に得んや

雪めく雲いま病み臥すは一惨事

大寒やなだれて胸にひびく曲

楽ひびけ起きてはならぬ寒満月

の墓抱き起されしとき見たり

咳き臥すや女の膝の聳えをり

大寒や怒りて叫ぶ墓見えつつ

吾子の頬や冬日の墓の犇きて

春遠し衾の中にうごめきて

息白き妻が見てをり剃毛す

きりきりと冬夜リンゲル押入るや

つひにこの冬暁の茶をゆるされぬ

生繼げば小春の松の秀枝見ゆ

眠れぬ夜凍ててゆくらむ水一壺