和歌と俳句

石田波郷

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なかぞらの鳩や大学枯れ果てぬ

寒椿つひに一日の懐手

の道馬糞その他をうべなへり

浅草や冬霧胸にあふれくる

冬の夜の皿もならさず兄妹

金色の階の嶮しや冬日閉づ

買溜めて暮の女の肘光る

帰り来て駅より低き寒の町

行人裡炭送り来し母の上

君長崎へ行くか沈々と酒寒し

唇甜めて英霊に禮す冬旱

二夜三夜兄妹會はず冬了る

鐵瓶の鳴るや兄妹汝を描き出づ

霜解くる町角ばかり駒場町

御手玉や二人の寒の女学生

熱き茶を飲んで用なし寒雀

笹鳴や一高の松その笹生

降るや父母の齢はさだかには

妹の婚期や雪のわづかに降る

河豚を煮てこの刻歳の逝きにけり

常磐木の槇の黝さや寒了る

寒三日月新婚の車砂利踏み出づ

短日も日曜なるや菓子を食ふ

友娶り然も在らぬか花八つ手

兄妹や寒の畳を拭ききしらせ

炭を挽く女の臀の幸福に

寄席を出し目鼻に寄るや冬の霧

木の影も笹鳴も午後人恋し

すぐもどる西の河原やはつしぐれ

雪泥やかかるところに年つまり

年越の女中おとしと詣でけり

四日より山にひびけや湯揉唄

冬の鵙来るや黝びし槙其他

大詔や寒屋を急ぎ出づ

笹鳴の町しづかなる又よしや

ふところに砂糖は買へり寒雀

ほしいまま湯気立たしめて獨ゐむ

九年母や我孫子も雪となりにけり

雪の竹沼へ傾きはじめけり

夜の雪となりゆく町や驛に出づ

水洟や我孫子の驛のたそがれて