和歌と俳句

石田波郷

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

ふりそそぐ日の戯れて朱欒もぐ

篁の鉾ゐならべり冬構

枇杷の花暁けそむるより憩らはず

葉牡丹やわが想ふ顔みな笑まふ

寒卵薔薇色させる朝ありぬ

檻の鷲さびしくなれば羽搏つかも

スチームにともに凭るひと母に似し

バス来らず冬雲累なり来

枯澄みし天城を縫ひてバスの揺れ

坂をゆき風邪かすかなり昼ふかし

風邪ごころ坂は電車もしづかなる

枯芝に学生ぞ黄なる寝顔せり

の樹々一樹歪みて崖に向く

霜の樹々影のながれの崖に向く

霜の崖一刷毛の日がさしてゐる

霜の崖徹夜の仕事抱きて攀づ

聖誕祭蹌踉の犬を蹴りて路地

スケート場芝区の街路海に出づ

スケート場海光の青の窓を篏め

スケートの渦を一人の服を見る

スケートの渦のゆるめり楽やすめり

スケートの父と子ワルツ疑はず

月食は駅の時刻にたがはざる

スキー列車月食の野を曲るなく

スキー列車あさき睡を歪み寝る

雪降れり月食の汽車山に入り

雪の嶺且つ褐色の木を蔽ふ

外套を黝くぞみたるのみに寝る

あをあをと雪の温泉は日を失へり

闇を来て覗きし室に朱の壁炉

書の白さ外套を脱ぎ痩身なる

物語壁炉が照らす卓の脚

礫敷き朱欒ころがれり樹に照れり

海の鳥来て木隠りぬ朱欒の木

犬若し一瞬朱欒園を抜け

さぶき空朱欒園裡を溝はしり

雪嶺よ女ひらりと船に乗る

冬霧のしろし相見る彼ぞ憂き

雪嶺の発破を眉のへに聞けり

硫黄精錬所見えず雪原うち匂ひ

昼餐どき毛皮の狐憂き睡り

人黒く二重廻しの蹲り食ふ

マネキンぞの羅見られつつ食へり