和歌と俳句

暖炉 ストーヴ

消燈の鐘鳴りわたる暖炉かな 子規

寒き風人持ち来る暖炉かな 虚子

髪に浮く雪片一つ夜の暖炉 石鼎

瑠璃の海全く暮れし暖炉かな 久女

雪晴の窓まばゆさや煖炉たく 爽雨

いつの間に雪になりし夜の暖炉かな 石鼎

胸像の月光を愛で暖炉焚く 蛇笏

持船の大額かゝる煖炉かな 花蓑

暖炉つくらふ鬢のほつれ毛ほてり頬に 石鼎

更けゆく夜暖炉の奥に海鳴りす みどり女

父も来て二度の紅茶や暖炉燃ゆ 秋櫻子

一片のパセリ掃かるる暖炉かな 不器男

うち湛へ氈のよろしも暖炉燃ゆ 草城

窓の海今日も荒れゐる煖炉かな 多佳子

早鞆の風おさまりし暖炉かな 多佳子

松葉焚くけふ始ごと煖炉かな 久女

燃え上る松葉明りの初煖炉 久女

横顔や煖炉明りに何思ふ 久女

投げ入れし松葉けぶりて煖炉燃ゆ 久女

新婚暖炉は壁に燃ゆるなり 誓子

ははびとの暖炉くべます新婚 誓子

新婚暖炉がこぼす美き火屑 誓子

鉄の甲冑彳てる暖炉かな たかし

煖炉の灯ちろちろうつり菓子ケース 立子

白熊の毛皮にうつる煖炉の火 青邨

暖炉昏し壺の椿を投げ入れよ 鷹女

暖炉灼く夫よタンゴを踊らうよ 鷹女

煖炉たき吾子抱き主婦の心たる 多佳子

煖炉もえ末子は父のひざにある 多佳子

聖母像高し暖炉の火を裾に 草田男

人々の黙ることあり煖炉もゆ 立子

積雪に古典を愛し煖爐焚く 蛇笏

煖爐もえ蘇鐡のあをき卓に倦む 蛇笏

聖霊を燃ゆる煖炉の裡にも見る 誓子

開けて見る暖炉の制しきれぬ火を 誓子

聖堂に曲がる煙突暖炉焚く 誓子

ペチカ

ペーチカを焚きてつめたき港あり 誓子

ペーチカや遅きあしたの海港に 誓子

ペーチカや碇泊の船も煙立つ 誓子

ペーチカや弾琴次の間に黒き 誓子

壁炉もえ主なき椅子の炉にむかひ 多佳子

吾子とゐて父なきまどゐ壁炉もえ 多佳子

壁炉照り吾子亡き父の椅子にゐる 多佳子

夜の濤は地に轟けり壁炉もゆ 多佳子

壁炉もえ白き寝台ひとを見ず 多佳子

闇を来て覗きし室に朱の壁炉 波郷

物語壁炉が照らす卓の脚 波郷

凍光に放心の刻ペチカもゆ 蛇笏

壁炉美し吾れ令色を敢へてなす しづの女

壁炉あかしあろじのひとみひややかに しづの女

壁の外海鳴り壁に炉がもゆる 多佳子

壁炉もえ吾寝る闇を朱にしたり 多佳子