和歌と俳句

霜夜

清輔
誰きかむ ともねに明かす 鴛鴦だにも さゆる霜夜は いかが鳴くなる

新古今集 清輔
君来ずは 一人や寝なむ 笹の葉の み山もそよに さやぐ霜夜を

山犬を馬が嗅ぎ出す霜夜かな 其角

水風呂に垢の落たるしもよ哉 許六

我骨のふとんにさはる霜夜哉 蕪村

行燈に薬鑵釣りたる霜夜哉 暁台

句を煉て腸うごく霜よかな 太祇

霜の夜や前居た人の煤下る 一茶

霜の夜や横町曲る迷子鉦 一茶

ほんのりと茶の花くもる霜夜哉 子規

星一つ見えて寐られぬ霜夜哉 漱石

大根に蓑着せて寐ぬ霜夜かな 鬼城

赤貧にたへて髪梳く霜夜かな 蛇笏

迢空
竹山に 古葉おちつくおと聞ゆ。霜夜のふけに、覚めつつ居れば

迢空
わがせどに 立ち繁む竹の梢冷ゆる 天の霜夜と 目を瞑りをり

寺の子に鴨の羽ほしき霜夜かな 石鼎

朴の月霜夜こころにくもりけり 石鼎

うたれ雉子を灯によせて見る霜夜かな 石鼎

火花散りし炭火の綾も霜夜哉 石鼎

薄棉はのばし兼ねたる霜夜かな 龍之介

山本の霜夜を笠のゆくへかな 龍之介

縁日の油煙の上の霜夜かな 石鼎

うす月を雁なきたつる霜夜かな 石鼎

霜の夜や枝張り合うて楢櫟 亞浪

二杯目の甘酒あつき霜夜かな 草城

月輪に万霊こもる霜夜かな 水巴

霜夜来し髪のしめりの愛しけれ 林火

朱硯にまた水滴らす霜夜かな 石鼎

常釜の湯気しんしんと霜夜かな 石鼎

枕辺の灯のなつかしき霜夜かな 草城

煙たえて香炉の冷える霜夜かな 蛇笏

酒さめてししむら冷ゆる霜夜かな 麦南

霜夜ひとり餅焼き焦す出征歌 楸邨

霜夜寝て四方走り居る汽車のこと 友二

昨日別れし人のおもはる霜夜かな 占魚

その行方言はねば霜夜いさぎよし 楸邨

霜夜そのふるさとびとを呼びて亡し 楸邨

兵の兒を爐にだく霜夜いかにせん 蛇笏

いちまいの枯葉を肩に霜夜来ぬ 林火

咳をしてつきかげけむる霜夜かな 草城

ひとりごとそのままこごる霜夜かな 草城

霜夜子は泣く父母よりはるかなものを呼び 楸邨

天邪鬼肘をつきをる霜夜かな 青畝

人責むるおもひ一途に霜夜かな 蛇笏

ことりともいはぬ霜夜のしづけさよ 草城

焙じ茶の汲む間もかをる霜夜かな 草城

十二時の後は一時や霜夜更く 風生