和歌と俳句

湯たんぽ 湯婆

湯婆から駒の出さうな手つき哉 涼菟

起さるる声も嬉しき湯婆哉 支考

夢よりは先へさめたる湯婆哉 也有

勤行に起別たる湯婆かな 太祇

冷え尽くす湯婆に足をちぢめけり 子規

目さむるや湯婆わづかに暖き 子規

ある時は手もとへよせる湯婆哉 子規

碧梧桐のわれをいたはる湯婆哉 子規

遼東の夢見てさめる湯婆哉 子規

なき母の湯婆やさめて十二年 漱石

湯婆の都の夢のほのぼのと 虚子

両親に一つづつある湯婆かな 鬼城

生涯の慌しかりし湯婆かな 鬼城

老ぼれて子のごとく抱く湯婆かな 蛇笏

白夜具の薄く汚れて湯婆かな 青畝

茂吉
湯たんぽを 机の下に 置きながら けふの午前を しづかに籠る

湯婆や我身にあらぬ膝頭ら 橙黄子

足のべてこだはりあつき湯婆かな 蛇笏

湯婆の一温何にたとふべき 虚子

病める子の足のせ眠る湯婆かな 虚子

ととさんに妻のまゐらす湯婆かな 麦南

熱湯をむさぼりこぼすたんぽかな 麦南

湯婆や生き永らへし物の恩 花蓑

諸歯落つ夢あはれ湯婆蹴りたるか 友二

みたくなき夢ばかりみる湯婆かな 万太郎

湯婆や忘じてとほき医師の業 秋櫻子

湯婆も母の体温とはならず 林火

湯婆抱き憎さ湧かぬを嘆きをり 不死男

湯たんぽに病み臥す嵩のつづきをり 爽雨

湯たんぽに病みて佛相をりをりに 爽雨

人逝きてその湯たんぽの行方なし 爽雨