和歌と俳句

千鳥 ちどり 鵆

人麻呂
淡海の海夕波千鳥汝が鳴けば情もしのに古思ほゆ

赤人
ぬばたまの夜のふけ行けば久木生ふる清き河原に千鳥しば鳴く

大伴坂上郎女
千鳥鳴く佐保の河瀬のさざれ波やむときもなしわが恋ふらくは

古歌集
佐保川に鳴くなる千鳥何しかも川原を偲ひいや川上る

友則
夕されば佐保の河原の河霧に友まどはせる千鳥鳴くなり

拾遺集 貫之
思ひかね妹がり行けば冬の夜の川風寒み千鳥鳴くなり

新古今集 源重之
しらなみにはねうちかはし濱千鳥かなしきものは夜のひと聲

新古今集・冬 伊勢大輔
行く先は小夜更けぬれど千鳥鳴く佐保の河原は過ぎうかりけり

新古今集・冬 能因法師
夕されば汐風越してみちのくの野田の玉川ちどり鳴くなり

後拾遺集 藤原孝善
霧はれぬあやの河べになく千鳥こゑにや友の行くかたをしる

後拾遺集 堀河右大臣頼宗
佐保河のきりのあなたになく千鳥こゑはへだてぬものにぞありける

後拾遺集 相模
なにはがたあさみつしほにたつ千鳥浦づたひする声きこゆなり

匡房
月影の 明石の浦を 漕ぎゆけば 千鳥しば鳴く 明けぬこの夜は

源顕仲
あづまなる なさかの浦に 潮満ちて ありあけの空に 千鳥しば鳴く

師頼
夜を寒み 明石の浦の 浜風に とわたる千鳥 声さわぐなり

京極関白家肥後
しらなみに こゑうちそへて はまちどり いそのまにまに たちゐなくなり

新古今集・冬 祐子内親王家紀伊
浦風に 吹上のはまの 濱千鳥 なみたち来らし 夜半に鳴くなり

金葉集 源兼昌
淡路島かよふ千鳥のなくこゑに幾夜ねざめぬ須磨の関守

金葉集 藤原長能
川霧は汀をこめて立ちにけりいづくなるらむ千鳥なくなり

千載集 加茂成保
霜枯れの難波の蘆のほのぼのとあるく湊に千鳥鳴くなり

千載集・羇旅 家隆
旅寝する須磨の浦路のさ夜千鳥声こそ袖の波はかけけれ

頼政
あづまめと 寝覚めてきけば 下野や あそのかはらに 千鳥なくなり

頼政
冴ゆる夜は 遠ざかりゆく 志賀の浦の 波のこなたに 千鳥なくなり

頼政
うち渡る やすのかはらに なく千鳥 さやかに見えぬ 明け暮れの空

頼政
夜舟こぎ 沖にてきけば 常陸の海 鹿島がさきに 千鳥なくなり

清輔
ひさ木おふる あそのかはらの かはおろしに たぐふ千鳥の 声のさやけさ

俊成
須磨の関有明の空に鳴く千鳥かたぶく月はなれもかなしや

西行
淡路島 磯わのちどり 聲しげし せとの鹽風 冴えまさる夜は

西行
あはぢ島 せとの汐干の 夕ぐれに 須磨よりかよふ 千鳥なくなり

西行
霜さえて 汀更けゆく 浦風を 思ひしりげに 鳴く千鳥かな

西行
さゆれども 心やすくぞ 聞きあかす 河瀬のちどり 友ぐしてけり

西行
八瀬渡る 湊の風に 月更けて 潮干る潟に 千鳥鳴くなり

寂蓮
須磨の浦の あまの漁火 かず消えて 帰る波路に 千鳥なくなり

新古今集・冬 実定
夕凪に とわたる千鳥 なみまより 見ゆるこじまの 雲に消えぬる

式子内親王
待たれつる隙しらむらむほのぼのと佐保の河原に千鳥鳴くなり

鴨長明
小夜更けて 千鳥つまよぶ 松風に こぬみの浜や さびしかるらむ

鴨長明
ねざめする なみのまくらに なく千鳥 おのがねにさへ 袖濡らせとや>

定家
友千鳥なぐさのはまのなみ風にそらさえまさるありあけの月

定家
むしあけの松吹くかぜや寒からむ冬の夜深くちどり鳴くなり

続後撰集 定家
浦風やとはに波こす濱松のねにあらはれて鳴く千鳥かな

定家
淡路島ちどりとわたる聲ごとにいふかひもなくものぞ悲しき

定家
長き夜を思ひあかしのうら風になくねをそふる友千鳥かな

定家
友したふ千鳥鳴くなりひれふりし松浦のやまのあとのしほ風

定家
こぎよする とまりさびしき 潮風に また夢さまし 千鳥鳴くなり

定家
我が君にあふくま川の小夜千鳥かきとどめつるあとぞ嬉しき

定家
千鳥なくかもの河瀬の夜半の月ひとつにみがく山あゐのそで

実朝
衣でに浦の松風さえわびて吹上の月に千鳥なくなり

実朝
ふりつもる雪ふむ磯の濱千鳥なみにしほれて夜半になくなり

定家
浦千鳥方もさだめずこひてなくつまふく風の夜ぞさびしき

定家
はまびさしなげの形見か友千鳥とわたりすぐる沖の小島に

定家
おのれ鳴け急ぐ関路の小夜ちどり鳥のそらねもこゑ立てぬまに

定家
濱千鳥とまらば雪の跡もうし鳴きてもいはむかたはなぎさに

定家
あはぢしま往来の舟のともがほに通ひなれたる浦ちどりかな

続後撰集 醍醐入道太政大臣
小夜千鳥 浦つたひゆく 浪の上に かたぶく月も 遠ざかりつつ

続後撰集 長覚法師
おきつ浪 よせくるいその むら千鳥 心ならずや 浦つたふらむ

続後撰集 行念法師
ゆふは河 いはもとすげの ねにたてて 長き夜あかす 鳴く千鳥かな


短日 冬の日 顔見世 冬の空 初雪 初氷 寒さ 冬木立 枯尾花 冬の山 枯野 みそさざい 都鳥 千鳥 冬の海 河豚 海鼠 冬ごもり 埋火 焚火 炬燵 風邪 日向ぼつこ 北風 冬の雨 冬の月 冬至 柚湯 クリスマス 師走 年の市 煤払い 年忘れ   歳の暮 行く年 大晦日 除夜