秋のみか風も心もとどまらずみなしもがれの冬の山ざと
かへり見るこずゑにくものかかる哉いでつるさとやいましぐるらん
おきそめてをしみし菊の色を又かへすもつらき冬の霜かな
あられふるしがの山地に風こえて峯にふきまくうらのさざなみ
秋ながら猶ながめつる庭のおものかれはも見えずつもる雪哉
こゑはせでなみよるあしのほずゑ哉しほひの方に風やふくらん
ながきよを思ひあかしのうら風になくねをそふる友千鳥哉
大井河浪をゐせきにふきとめてこほりは風のむすぶなりけり
よそへても見せばや人にをしがものさわぐいり江のそこのおもひを
夜をへては見るもはかなきあじろ木にこしのみそらの風をまつ覧
かをとめしさか木のこゑにさよふけて身にしみはつるあかぼしのそら
とまるなよかりばのをののすり衣ゆきのみだれにそらはきるとも
をの山や見るだにさびしあさゆふにたれすみがまのけぶりたつらん
うづみ火のひかりもはひにつきはててさびしくひびくかねのおと哉
ながらふるいのち許のかごとにてあまたすぎぬるとしのくれ哉
後の世をかけてや恋ひむゆふだすきそれとも分かぬ風のまぎれに
思ふとは君にへだててさよ衣なれぬなげきに年ぞかさなる
あひ見ての後の心をまづしればつれなしとだにえこそ恨みね
なにをこのみるとも分かぬまぼろしによその歎きのちへ増るらむ
いかにせむ夢よりほかに見し夢の恋にこひますけさのなみだを
おのづから人も時の間思ひ出でばそれをこの世の思ひ出にせむ
旅寝するあらき濱邊のなみの音にいとど立ちそふ人の面かげ
いかばかり深きけぶりのそこならむ月日とともにつもるおもひの
宵々は忘れてぬらむ夢にだになるとを見えよかよふたましひ
きみよりも世よりもつらき契りこそ身をかへつとも恨みのこらめ