和歌と俳句

大井川

後撰集・雑歌 業平
大井河うかべる舟のかがり火にをぐらの山も名のみなりけり

続後撰集・冬 延喜七年 大井河に行幸時 坂上是則
もみぢばの 落ちてながるる 大井河 瀬々のしがらみ かげもとめなむ

拾遺集・秋 忠岑
色々の木の葉流るる大井河下は桂の紅葉とや見ん


夕さればいとどわびしきおほゐかは篝火なれや消えかへりもゆ


おほゐかはそまに秋風さむければ立ついは波も雪とこそみれ

後拾遺集・秋 堀河右大臣頼宗
水上にもみぢながれて大井河むらごにみゆる瀧の白絲

後拾遺集・秋 中納言定頼
水もなく見えこそわたれ大井河きしのもみぢば雨とふれども

後拾遺集・冬 公任
おちつもる紅葉をみれば大井川ゐぜきに秋もとまるなりけり

後拾遺集・冬 白河院御製
大井川ふるきながれを尋ねきてあらしの山のもみぢをぞみる

金葉集・秋 経信
大井川いはなみたかし筏士よ岸の紅葉にあから目なせそ

経信
もみぢ見し折ならねども大井がは秋のけしきの浅からぬかな

経信
おほゐ川たぎつせもなく秋深みもみぢの淵となりにけるかな

経信
古のあとをたづねて大井川もみぢのみ船ふなよそひせり

顕季
おほゐ川 ゐせきの音の なかりせば 紅葉を敷ける 渡りとや見む

顕季
おほゐ川 瀬々にひまなき 篝火と 見ゆるはすだく なりけり

顕季
かめやまの かげをうつして おほゐ川 幾代までにか 年の経ぬらむ

俊頼
戸無瀬より 流す錦は 大堰川 筏につめる 木の葉なりけり

俊頼
おほゐ川 みなわさかまく いはふちに たたむいかだの すぎがたのよや

公能
おほゐ川 下す筏の ひまぞなき 落ち来る滝も のどけからねば

崇徳院
高瀬舟かじふりたてよ大井川岸の紅葉をいかが過ぐべき

季通
おほゐ川 のぼればいとど 涼しきは 戸無瀬に秋や 通ふなるらむ

千載集・秋 俊恵
けふ見れば嵐の山は大堰川紅葉吹きおろす名にこそありけれ

千載集・秋 道因法師
大堰川流れて落つるもみぢかなさそふは峯のあらしのみかは

千載集・雑歌 空人法師
おほゐ川となせの滝に身を投げて早くと人にいはせてしがな

新古今集 俊成
大堰川かがりさし行く鵜飼舟いく瀬に夏の夜を明かすらむ

新古今集 藤原資宗朝臣
いかだ士よ待てこと問はむ水上はいかばかり吹く山の嵐ぞ

新古今集 経信
散りかかる紅葉流れぬ大井河いづれゐぜきの水のしがらみ

新古今集 藤原家経
高瀬舟しぶくばかりにもみぢ葉のながれてくだる大井河かな

西行
大堰川をぐらの山の郭公井堰に声のとまらましかば

西行
大井河ゐせぎによどむ水の色に秋ふかくなるほどぞ知らるる

西行
大井川君がなごりのしたはれて井堰の波の袖にかかれる

寂蓮
おほゐ川 ゐせきの水や こほるらむ 早瀬に鴛鴦の こゑくだるなり

定家
大井河をちのこずゑの青葉より心に見ゆる秋のいろいろ

定家
大井河浪をゐせきにふきとめてこほりは風のむすぶなりけり

良経
大井川なほ山かげに鵜飼舟いとひかねたる夜半の月かな

定家
大井河夏ごとにさすかりやかたいくとせか見るくだす桴を

続後撰集・冬 定家
大井川まれのみゆきに年へぬる紅葉のふなぢ跡はありけり

定家
大井河かはらぬゐせきおのれさへ夏きにけりと衣ほすなり

家隆
大井川幾瀬のぼれば鵜飼舟嵐の山の明わたるらん

実朝
たちかへりみてをわたらむ大井がは川辺の松にかかる藤波

定家
大井河なつのみ結ぶとまやかたみじか夜ならぬ月もやどらじ

定家
大井川ゐせきの浪の花のいろをうつろひ捨つる岸の白菊

続後撰集・冬 洞院摂政左大臣教実
おほゐ河 風のしがらみ かけてけり 紅葉のいかだ ゆきやらぬまで