和歌と俳句

後拾遺和歌集

前大納言公任
おちつもる紅葉をみれば大井川ゐぜきに秋もとまるなりけり

大僧正深覚
たむけにもすべきもみぢの錦こそ神無月にはかひなかりけれ

白河院御製
大井川ふるきながれを尋ねきてあらしの山のもみぢをぞみる

藤原兼房朝臣
あはれにもたえず音する時雨かなとふべき人もとはぬすみかを

永胤法師
神無月ふかくなりゆくこずゑよりしぐれてわたるみやまべの里

源頼実
木の葉ちる宿はききわくことぞなき時雨する夜も時雨せぬよも

藤原家経朝臣
もみぢちる音は時雨のここちしてこずゑの空はくもらざりけり

能因法師
かみなづきねざめにきけば山里のあらしのこゑは木の葉なりけり

橘義通朝臣
網代木に紅葉こきまぜよる氷魚は錦をあらふ心地こそすれ

中宮内侍
宇治河の早く網代はなかりけりなにによりてか日をば暮さむ

藤原孝善
霧はれぬあやの河べになく千鳥こゑにや友の行くかたをしる

堀河右大臣頼宗
佐保河のきりのあなたになく千鳥こゑはへだてぬものにぞありける

相模
なにはがたあさみつしほにたつ千鳥浦づたひする声きこゆなり

和泉式部
さびしさに煙をだにもたたじとて柴をりくぶる冬の山里

大弐三位
山の端はなのみなりけり見る人の心にぞいる冬の夜の月

増基法師
冬の夜にいくたびばかりねざめして物おもふやどのひましらむらむ

民部卿長家
とやかへるしらふの鷹のこゐをなみ雪げの空にあはせつるかな

能因法師
打ち拂ふ雪もやまなむみ狩野のすすきのあともたづぬばかりに

律師長濟
萩原も霜枯れにけりみ狩野はあさるきぎすのかくれなきまで

能宣
霜枯れの草のとざしはあだなれどなべての人をいるるものかは

少輔
霜がれは一つ色にぞなりにける千種にみえし野邊にはあらずや

よみ人しらず
おちつもる庭の木の葉を夜のほどに拂ひてけりと見する朝霜

大江公資朝臣
杉の板をまばらにふける閨の上におどろくばかりふるらし

橘俊綱朝臣
とふ人もなぎ蘆ぶきの我が宿は降るさへ音せざりけり