和歌と俳句

佐保川

大伴郎女
佐保川の小石踏み渡りぬばたまの黒馬来る夜は年にもあらぬか

大伴郎女
千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波やむ時もなし我が恋ふらくは

大伴郎女
千鳥鳴く佐保の川門の瀬を広み打橋渡す汝が来と思へば

大伴坂上郎女
佐保川の岸のつかさの柴な刈りそねありつつも春し来らば立ち隠るがね

大伴坂上郎女
うち上る佐保の川原の青柳は今は春へとなりにけるかも

古歌集
佐保川に鳴くなる千鳥何しかも川原を偲ひいや川上る


古今集・賀歌 よみ人しらず
千鳥なく佐保の河ぎり立ちぬらし山の木の葉も色まさりゆく

後撰集・冬 よみ人しらず
冬くれば佐保の河せにゐるたづもひとりねがたきねをぞなくなる

後撰集・雑歌 閑院左大臣
ふるさとの佐保の河水けふも猶かくてあふせはうれしかりけり

拾遺集・秋 忠岑
千鳥鳴く佐保の河霧立ちぬらし山の木の葉も色かはり行

後拾遺集・冬 堀河右大臣頼宗
佐保河のきりのあなたになく千鳥こゑはへだてぬものにぞありける

恵慶法師
紅葉見にやどれる我と知らねばや佐保の河霧立ち隠すらん

能宣
暁の寝覚めの千鳥誰がためか佐保の河原にをちかへり鳴く

好忠
入日さす佐保の川瀬の柞原くもらぬ雨と木の葉ふりつつ

師頼
佐保川の 岸のまにまに むれ立ちて 風になみよる 青柳の糸

西行法師
見渡せばさほの川原にくりかけて風によらるる青柳の糸

式子内親王
待たれつる隙しらむらむほのぼのと佐保の河原に千鳥鳴くなり

新古今集・冬 伊勢大輔
行く先は小夜更けぬれど千鳥鳴く佐保の河原は過ぎうかりけり

新古今集・雑歌 知足院入道前関白太政大臣忠実
佐保川の流れひさしき身なれどもうき瀬にあひて沈みぬるかな

新古今集・神祇 入道前関白太政大臣兼実
今日まつる神のこころや靡くらむしでに波立つ佐保の川風

俊成
浅緑さほのかはべの玉柳つりをたれけむ糸かとぞみる

俊成
月きよみ瀬々に氷や結ぶらむ佐保の河原に千鳥なくなり

定家
さほ河のせぜの岩波ふみしだきこほりにふくるさ夜千鳥かな

良経
水上に 頼みはかけき 佐保川の 末の藤波 なみにくたすな

良経
たのもしな 佐保の川風 神さびて みぎはの千鳥 やちよとぞなく

雅経
千鳥なく 佐保のかはらの 川風に 霧はれわたる ありあけの月

実朝
ながむれば衣手さむし夕づく夜さほの川原の秋の初風

実朝
月きよみ秋の夜いたく更にけりさほの河原に千鳥しばなく

実朝
夕月夜佐保の川風身にしみて袖より過る千鳥鳴くなり

実朝
千鳥鳴さほの川原の月きよみ衣手さむし夜や更ぬらむ


蕪村
佐保河を蔵にめぐらすにざけかな