和歌と俳句

後撰和歌集

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

閑院
春やこし秋やゆきけんおぼつかな影の朽木と世をすづす身は

貫之
世の中は憂きものなれやひとことのとにもかくにもきこえくるしき

よみ人しらず
武蔵野は袖ひづばかりわけしかどわか紫はたづねわびにき

忠岑
おほあらきのもりの草とやなりにけむかりにだにきてとふ人のなき

よみ人しらず
あはれてふ事こそつねのくちのはにかかるや人を思ふなるらむ

伊勢
吹く風のしたのちりにもあらなくにさも立ちやすきわがなき名かな

閑院左大臣
ふるさとの佐保の河水けふも猶かくてあふせはうれしかりけり

俊子
わがやどをいつならしてか楢の葉をならしかほには折りにおこする

返し 枇杷左大臣仲平
楢の葉のはもりの神のましけるを知らでぞ折りしたたりなさるな

よみ人しらず
帰りては声やたがはむ笛竹のつらきひとよのかたみと思へば

返し よみ人しらず
ひとふしに怨みなはてそ笛竹のこゑの内にも思ふ心あり

躬恒
人につくたよりだになしおほあらきのもりのしたなる草の身なれば

兼忠朝臣母のめのと
結びおきしかたみのこだになかりせば何に忍の草をつままし

よみ人しらず
うれしきも憂きも心はひとつにてわかれぬ物は涙なりけり

貫之
惜しからで悲しきものは身なりけりうき世そむかん方をしらねば

よみ人しらず
思ひいづる時ぞかなしき世の中はそら行く雲のはてをしらねば

よみ人しらず
哀れとも憂しともいはじ陽炎のあるかなきかに消ぬる世なれば

よみ人しらず
あはれてふ事になぐさむ世の中をなどか昔といひて過ぐらむ

よみ人しらず
物思ふと行きても見ねば誰がかたのあまのとまやは朽ちやしぬらむ

躬恒
夢にだにうれしとも見ば現にてわびしきよりはなほまさりなむ