よみ人しらず
いつしかとまつちの山の桜花まちてもよそにきくが悲しさ
伊勢
いせ渡る河は袖より流るれどとふにとはれぬ身はうきぬめり
北辺左大臣
人めだに見えぬ山ぢに立つ雲をたれ炭竃の煙といふらむ
女のはは
今こむといひしばかりを命にて待つにけぬべしさくさめのとし
返し むこ
數ならぬ身のみ物憂くおもほえてまたるるまでもなりにけるかな
よみ人しらず
有りと聞く音羽の山のほととぎす何隠るらむ鳴くこゑはして
よみ人しらず
あしのうらのいときたなくも見ゆるかな浪はよりてもあらはざりけり
よみ人しらず
人心たとへてみれば白露の消ゆる間もなほ久しかりけり
よみ人しらず
世の中といひつるものか陽炎のあるかなきかのほどにぞありける
よみ人しらず
かくばかりわかれのやすき世の中につねとたのめる我ぞはかなき
伊勢
ちりに立つわが名きよめむももしきの人の心をまくらともがな
こまちかむまこ
憂き事をしのふる雨の下にしてわが濡れ衣は干せど乾かず
よみ人しらず
逢ふ事のかたみのこゑのたかければわがなくねとも人はきかなむ
よみ人しらず
涙のみしる身の憂さも語るべくなげく心を枕にもがな
伊勢
あひにあひて物思ふころのわが袖はやどる月さへぬるるかほなる
貫之
あはれてふ事にしるしはなけれどもいはではえこそあらぬものなれ
よみ人しらず
うつろはぬ名に流れたる河竹のいづれの世にか秋をしるべき
贈太政大臣時平
ふかき思ひそめつといひし言の葉はいつか秋風ふきて散りぬる
返し 伊勢
心なき身は草木にもあらなくに秋くる風にうたがはるらむ