よみ人しらず
滝つ瀬に誰白玉をみたりけむひろふとせしに袖はひぢにき
源昇朝臣
いつのまにふりつもるらむみ吉野の山のかひよりくづれおつる雪
法皇御製
宮の滝むべも名におひてきこえけり落つるしらあわの玉とひびけば
僧正遍昭
今更に我は帰らじ滝見つつ呼べどきかずと問はばこたへよ
よみ人しらず
滝つ瀬のうつまきごとにとめくれど猶たづねくる世のうきめかな
遍昭
たらちめはかかれとてしもむばたまのわが黒髪を撫でずやありけむ
藤原もとよしの朝臣
栽ゑし時契りやしけむ武隈の松をふたたびあひみつるかな
よみ人しらず
菅原や伏見のくれに見わたせば霞にまがふをはつせの山
よみ人しらず
ことのはもなくて経にける年月にこの春だにも花はさかなむ
業平朝臣
難波津をけふこそみつの浦ごとにこれやこの世をうみわたる舟
文屋康秀
白雲のきやどる峰の小松原枝しげけれや日のひかりみぬ
土左
身にさむくあらぬものからわびしきは人の心の嵐なりけり
土左
ながらへば人の心も見るべきを露の命ぞ悲しかりける
閑院大君
もろともにいさとはいはでしでの山いかでかひとりこえんとはせし
伊勢物語・八十二段かむつけのみねを
おしなべて峰もたひらになりななむ山の端なくば月もかくれじ
よみ人しらず
わがやどにあひやどりしてすむかはづ夜になればや物は悲しき
よみ人しらず
玉江こぐ芦刈を舟さしわけて誰をたれとか我は定めむ
よみ人しらず
みちのくのをふちの駒ものかふにはあれこそまされなつくものかは
源善朝臣
いづくとてたづねきつらん玉かづら我は昔の我ならなくに
よみ人しらず
朝ごとに見しみやこぢの絶えぬれば事あやまりにとふ人もなし