よみ人しらず
わがためにおきにくかりしはしたかの人のてに有りときくはまことか
よみ人しらず
声にたてていはねどしるしくちなしの色はわがためうすきなりけり
よみ人しらず
滝つ瀬のはやからぬをぞ怨みつる見ずとも音に聞かんとおもへば
よみ人しらず
みな人にふみみせけりなみなせ河その渡こそまつはあさけれ
ひかきの嫗
年ふればわが黒髪も白河の水はくむまで老いにけるかな
貫之
かざすともたちとたちなんなき名をば事なし草のかひやなからむ
貫之
帰りくる道にぞけさは迷ふらむこれになずらふ花なきものを
よみ人しらず
おほそらに行きかふ鳥の雲ぢをぞ人のふみみぬものといふなる
よみ人しらず
紀の國のなくさのはまは君なれや事のいふかひ有りとききつる
貫之
浪にのみ濡れつるものを吹く風のたよりうれしきあまのつり舟
よみ人しらず
緑なる松ほどすきはいかてかは下葉ばかりも紅葉せざらむ
真延法師
思いでの煙やまさんなき人のほとけになれるこのみ見ば君
返し 右大臣師輔
道なれるこの身尋ねて心ざし有りと見るにぞねをばましける
よみ人しらず
いづこにも身をばはなれぬ影しあれば臥す床ことにひとりやはぬる
真延法師
風霜に色も心もかはらねばあるじ似たるうゑ木なりけり
返し 行明のみこ
山深みあるしに似たるうゑ木をば見えぬ色とぞいふべかりける
業平朝臣
大井河うかべる舟のかがり火にをぐらの山も名のみなりけり
よみ人しらず
明日香河わが身ひとつの淵瀬ゆゑなべての世をも怨みつるかな
よみ人しらず
世の中をいとひがてらにこしかどもうき身ながらの山にぞありける
よみ人しらず
下にのみはひ渡りつる蘆の根のうれしき雨にあらはるるかな