和歌と俳句

伊勢

後撰集・春
白玉をつつむ袖のみながるるはは涙もさえぬなりけり

後撰集・春
見ぬ人のかたみがてらは折らざりき身になずらへる花にしあらねば

後撰集・春
青柳の糸撚り延へて織るはたをいづれの山の鶯か着る

後撰集・春
かきこしに散りくる花を見るよりはねこめに風の吹きもこさなん

後撰集・春
鶯に身をあひかへば散るまでも我が物にして花は見てまし

後撰集・春
君見よと尋て折れる山桜ふりにし色と思はざら南

後撰集・夏
木がくれて五月待つとも郭公羽ならはしに枝うつりせよ

後撰集・夏
二声と聞とはなしに郭公夜深く目をもさましつる哉

後撰集・秋拾遺集・秋
植へたてて君がしめゆふ花なれば玉と見えてや露も置くらん

後撰集・秋
心なき身は草葉にもあらなくに秋来る風に疑はるらん

後撰集・秋
やどもせに植へなめつつぞ我は見る招く尾花に人やとまると

後撰集・秋
女郎花折りも折らずもいにしへをさらにかくべき物ならなくに

後撰集・冬
涙さへ時雨にそひてふるさとは紅葉の色も濃さまさりけり

後撰集・恋
思ひ河絶えず流るる水の泡のうたがた人にあはで消えめや

後撰集・恋
人恋ふる涙は春ぞぬるみけるたえぬ思ひのわかすなるべし

後撰集・恋
いかでかく心ひとつをふたしへにうくもつらくもなして見すらん

後撰集・恋
わたつみと頼めし事も褪せぬれば我ぞ我が身のうらは怨むる

後撰集・恋
清けれど玉ならぬ身のわびしきは磨ける物に言はぬ也けり

後撰集・恋
厭はるる身をうれはしみいつしかと明日香川をも頼むべらなり