後撰集・離別羇旅
遅れずぞ心に乗りてこがるべき浪に求めよ舟見えずとも
後撰集・離別羇旅
押さへつつ我は袖にぞせきとむる舟越す潮になさじと思へば
後撰集・離別羇旅
草枕旅となりなば山の辺に白雲ならぬ我や宿らん
後撰集・離別羇旅
水もせに浮きぬる時はしがらみの内の外のとも見えぬもみぢ葉
後撰集・慶賀哀傷
ここらよをきくがうちにも悲しきは人の涙もつきやしぬらむ
後撰集・慶賀哀傷
なき人の影だに見えぬやり水のそこは涙に流してぞ来し
後撰集・慶賀哀傷
ひとりゆく事こそうけれふるさとの奈良のならびて見し人もなみ
後撰集・慶賀哀傷
程もなく誰もをくれぬ世なれどもとまるはゆくをかなしとぞ見る
後撰集・慶賀哀傷
かけてだに我が身の上と思きや来む年春の花を見じとは
後撰集・慶賀哀傷
鳴く声にそひて涙はのぼらねど雲の上より雨と降るらん
拾遺集・春
散り散らす聞かまほしきをふる里の花見て帰人も逢はなん
拾遺集・夏
ふたこゑときくとはなしに郭公夜深くめをもさましつるかな
拾遺集・夏
いづこにも咲きはすらめど我が宿のやまと撫子誰に見せまし
拾遺集・秋
うつろはむ事だに惜き秋萩を折れぬ許も置ける露哉
拾遺集・冬
あしひきの山ゐにふれる白雪はすれる衣の心地こそすれ
拾遺集・賀
大空にむれたる鶴のさしながら思心のありげなるかな
拾遺集・賀
春の野の若菜ならねど君がため年の数をもつまんとぞおもふ
拾遺集・賀
千とせとも何か祈らんうらに住む鶴の上をぞ見るべかりける
拾遺集・別
郭公ねぐらながらのこゑきけは草の枕ぞ露けかりける