近江更衣
さみだれに濡れにし袖にいとどしく露おきそふる秋のわびしさ
延喜御製
おほかたも秋はわびしき時なれど露けかるらん袖をしぞ思ふ
法皇御製
白露のかはるもなにかをしからんありてののちもややうきものを
伊勢
うゑたてて君がしめゆふ花なれば玉と見えてや露もおくらん
右大臣師輔
折りて見る袖さへぬるるをみなへしつゆけき物と今やしるらん
大輔
よろづよにかからんつゆををみなへしなに思ふとかまたきぬるらん
右大臣師輔
おきあかす露のよなよなへにければまたきぬるともおもはざりけり
大輔
今ははや打ちとけぬべき白露の心おくまでよをやへにける
よみ人しらず
白露のうへはつれなくおきゐつつ萩のしたはの色をこそ見れ
伊勢
心なき身はくさはにもあらなくに秋くる風にうたかはるらん
よみ人しらず
人はいさ事ぞともなきながめにぞ我はつゆけき秋もしらるる
中宮宣旨
花すすき穂にいづる事もなきやとは昔しのぶの草をこそ見れ
伊勢
やどもせにうゑなめつつぞ我は見るまねくをはなに人やとまると
よみ人しらず
秋の夜をいたづらにのみおきあかす露はわが身のうへにぞありける
よみ人しらず
おほかたにおく白露も今よりは心してこそみるべかりけれ
右大臣師輔
露ならぬわが身と思へど秋の夜をかくこそあかせおきゐながらに
よみ人しらず
白露のおくにあまたの声すれば花のいろいろありとしらなん
左大臣実頼
くれはてば月も待つべし女郎花雨やめてとは思はざらなん
よみ人しらず
秋の田のかりほのやどのにほふまで咲ける秋萩みれどあかぬかも
よみ人しらず
秋の夜をまどろまずのみあかす身は夢路とだにぞたのまざりける