つらゆき
秋風の吹きくるよひはきりぎりす草のねごとにこゑみだれけり
つらゆき
わがごとく物やかなしききりきりす草のやどりにこゑたえずなく
つらゆき
こむといひしほどやすぎぬる秋の野に誰松虫ぞこゑのかなしき
つらゆき
秋の野にきやどる人もおもほえずたれを松虫ここらなくらむ
つらゆき
秋風のややふきしけば野をさむみわびしき声に松虫ぞなく
藤原元善朝臣
秋くれば野もせに虫のおりみだる声のあやをば誰かきるらん
よみ人しらず
風さむみなく秋虫の涙こそくさば色どる露とおくらめ
よみ人しらず
秋風の吹きしく松は山ながら浪たちかへる音ぞきこゆる
壬生忠岑
松のねに風のしらべをまかせては竜田姫こそ秋はひくらし
左大臣実頼
山里の物さびしさは荻のはのなびくことにぞ思ひやらるる
小野道風朝臣
穂にはいでぬいかにかせまし花すすき身を秋風にすてやはててん
よみ人しらず
あけくらしまもるたのみをからせつつ袂そほつの身とぞ成りぬる
よみ人しらず
心もておふる山田のひつちほは君まもらねどかる人もなし
藤原守文
草のいとに貫く白玉と見えつるは秋のむすべる露にぞありける
貫之
花見にといでにしものを秋の野の霧に迷ひてけふはくらしつ
よみ人しらず
浦ちかくたつ秋霧はもしほやく煙とのみぞ見えわたりける
おきかぜ
をるからにわがなはたちぬ女郎花いさおなじくははなはなに見む
よみ人しらず
秋の野の露におかるる女郎花はらふ人なみぬれつつやふる
よみ人しらず
をみなへし花の心のあだなれば秋にのみこそあひわたりけれ