和歌と俳句

新古今和歌集

雑歌

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和泉式部
世をそむく方はいづくもありぬべし大原山はすみよかりきや

返し 少将井尼
思ふことおほはら山の炭竃はいとどなげきの數をこそ積め

西行法師
たれ住みてあはれ知るらむ山里の雨降りすさぶ夕暮の空

西行法師
しをりせでなほ山深く分け入らむ憂きこと聞かぬ所ありやと

殷富門院大輔
かざしをる三輪のしげ山かきわけて哀れとぞ思ふ杉立てる門

道命法師
いつとなくをぐらの山のかげを見て暮れぬと人の急ぐなるかな

藤原定家朝臣
嵯峨の山ちよのふる道あととめてまた露わくる望月の駒

知足院入道前関白太政大臣
佐保川の流れひさしき身なれどもうき瀬にあひて沈みぬるかな

東三條入道前関白太政大臣
かかるせもありけるものを宇治川の絶えぬばかりも歎きけるかな

御返し 圓融院御歌
昔より絶えせぬ川の末なれば淀むばかりをなに歎くらむ

万葉集 人麿
もののふの八十うぢ川の網代木にいさよふ波の行方知らずも

中納言在原行平
わが世をば今日か明日かと待つかひの涙の瀧といづれ高けむ

二條関白内大臣
みなかみの空に見ゆるは白雲のたつにまがへる布引の瀧

藤原有家朝臣
ひさかたの天つをとめがなつごろも雲居にさらす布引の瀧

摂政太政大臣良経
むかし聞く天の河原を尋ね来てあとなき水をながむばかりぞ

藤原実方朝臣
天の川通ふうき木にこと問は紅葉の橋は散るや散らずや

前中納言匡房
眞木の板も苔むすばかりなりにけり幾世経ぬらむ瀬田の長橋

中務
定めなき名には立てれど飛鳥川早く渡りし瀬にこそありけれ

前大僧正慈円
山里にひとりながめて思ふかな世に住む人のこころながさを

西行法師
山里にうき世いとはむ友もがな悔しく過ぎしむかし語らむ

西行法師
山里は人来させじと思はねどとはるることぞ疎くなりゆく

前大僧正慈円
草の庵をいとひてもまたいかがせむ露のいのちのかかるかぎりは

大僧正行尊
わくらばになどかは人のとはざらむ音無川にすむ身なりとも

安法法師
世をそむく山のみなみの松風に苔のころもや夜寒なるらむ

藤原家隆朝臣
いつかわれ苔のたもとに露置きて知らぬ山路の月を見るべき

式子内親王
今はわれ松のはしらの杉の庵に閉づべきものを苔ふかき袖

太皇太后宮小侍従
しきみ摘む山路の露にぬれにけりあかつきおきの墨染の袖

摂政太政大臣良経
忘れじの人だにとはぬ山路かな桜は雪に降りかはれども

藤原雅経
かげやどす露のみしげくなりはてて草にやつるるふるさとの月

賀茂重保
けぶり絶えて焼く人もなき炭竃のあとのなげきを誰かこるらむ

西日法師
やそぢあまり西の迎へを待ちわびて住みあらしたる柴のいほりぞ

前大僧正慈円
山里に訪ひ来る人のことぐさはこのすまひこそうらやましけれ

式子内親王
斧の柄の朽ちし昔は遠けれどありしにもあらぬ世をもふるかな

皇太后宮大夫俊成
いかにせむしづが園生の奥の竹かきこもるとも世の中ぞかし