沖深み釣りするあまの漁火のほのかに見てぞ思ひそめてし
思ふより見しより胸に焚く恋のけふうちつけに燃ゆるとやしる
あはれとはさすがに見るやうちいでし思ふ涙のせめてもらすを
思ひかね浅澤小野に芹つみし袖の朽ち行くほどを見せばや
かりにだにまだ結ばねど人ごとの夏野の草としげきころかな
我が恋は逢ふにもかへすよしなくて命ばかりの絶えや果てなん
假初に伏見の里の夕露のやどりはかへる袂なりけり
浅ましや浅香の沼の花がつみかつ見馴れても袖はぬれけり
我が袖のぬるるばかりは包みしに末摘花はいかさまにせむ
入りしより身をこそ砕け浅からず忍ぶの山の岩のかげ道
年月の恋もうらみもつもりてはきのふにまさる袖の淵かな
常磐木の契やまがふ立田姫しらぬ袂も色変りゆく
ただいまのゆふべの雲を君も見ておなじしぐれや袖にかからむ
たそがれの荻のはかぜにこのごろのとはぬならひをうち忘れつつ