和歌と俳句

式子内親王

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旅人の跡だに見えぬ雲の中に馴るれば馴るる世こそありけれ

急がずは二夜も見まし草の庵のむかひの山に出づる月影

露霜も四方の嵐に結びきて心くだくるさよの中山

行きとまるかたやそことも白雲や紅葉の蔭や旅人の宿

ながむれば嵐の聲も波の音もふけゐの浦の有明の月

川舟のうきて過ぎ行く波の上にあづまのことぞ知られ馴れぬる

逢はじとて葎の宿をさしてしをいかでか老の身をたづぬらん

今日は又きのふにあらぬ世の中を思へば袖も色かはり行く

憂きことは巌の中も聞こゆなりいかなる道もありがたの世や

世の中に思ひ乱れぬ刈萱のとてもかくてもすぐる月日を

あはれあはれ思へば悲しつひの果 しのぶべき人 誰となき身を

ささがにのいとどかかれる夕露のいつまでとのみ思ふものから

きほひつつさきだつ露を數へても浅茅が末を猶たのむかな

年ふれどまだ春しらぬ谷の内の朽木のもとも花を待つかな

鶴の子の千たび巣立たん君が代を松のかげにや誰も隠れん