神無月風にまかするもみぢばに涙あらそふみ山べの里
冬の夜は木の葉がくれもなき月の俄にくもる初時雨かな
幾返りことだにつけて村時雨外山の木ずゑ染めめぐるらん
冬きては深からねども起きてみる朝の原は霜枯れにける
めぐりくる時雨の度に答へつつ庭に待とる楢の葉がしは
たのみつる軒ばの真柴秋くれて月にまかする霜の狭筵
旅枕伏見の里の朝ぼらけ刈田の霜にたづぞ鳴くなる
とけてねぬ夜半の枕ををのづから氷にむすぶ鴛ぞこととふ
新勅撰集
落ちたぎつ岩きりこえし谷水も冬はよなよな行きなやむなり
雪の上の乙女の姿しばし見ん影ものどけき豊のあかりに
さらでだに思の絶えぬ冬の夜の松風ふけぬ霰乱れて
霜をきてなを頼みつるこやの蘆を雪こそ今朝は刈り果ててけれ
たかさごの松の木ずゑの雪おれを谷のいほりにききあかすかな
今朝の雪に誰かはとはん駒の跡をたづぬる人の音ばかりして
せめてなを心ぼそきは年月のいるがごとくに有明の月