和歌と俳句

式子内親王

最初のページ 前のページ< >次のページ

明けぬなりさぞと思ふに秋にそむ心の色のまづ変るらん

庭の苔軒のしのぶは深けれど秋のやどりになりにけるかな

秋くれば常磐の山に年をふる松しも深く変る色かな

草枕はかなく宿る露の上をたえだえみがく宵の稲妻

道とをき小野の篠原ふけにけり露分け衣すりかさねつつ

蟲の音もまがきの鹿も一つにて涙みだるる秋の夕暮

露寒みわくれば風にたぐひつつすがる鳴くなり小野の萩原

ながむれば露のかからぬ袖ぞなき秋のさかりの夕暮の空

露深き野辺をあはれと思ひしに蟲にとはるる秋の夕暮

秋の夜の静かにくらき窓の雨打歎かれてひましらむなり

露はさぞ野原篠原分入ば蟲の音さへぞ袖にくだくる

葎さす宿にも秋のたづねきて月に誘ふは今年のみかは

秋の夜のふけゆくままの花の上は月と玉とを磨くなりけり

見れば涙も袖に砕けけり冬になりゆく心のみかは

ながむれば我が心さへはてもなく行ゑも知らぬ月の影かな

宿る袖くだく心をかごとにて月と秋とを恨みつるかな

今はとて影をかくさん夕にも我をばをくれ山の端の月

更けてゆく秋の思もわびはつる涙なそへそ袖の月影

深き秋の程こそ見ゆれ立田姫いそぐ木ずゑの四方の色々

吹とむる落葉がしたのきりぎりすここばかりにや秋はほのめく