春過てまだ時鳥かたらはぬ今日のながめをとふ人もがな
時鳥しのびねや聞くとばかりに卯月の空はながめられつつ
我宿の垣ねの雪を卯の花に山時鳥過ぐるにぞ知る
まちまちて夢か現か時鳥ただ一こゑの明ぼのの空
さびしくも夜半の寝覚をむら雨に山時鳥一こゑぞとふ
昔思ふはなたち花にをとづれて物わすれせぬ時鳥かな
手にかほる水のみなかみ尋ぬれば花橘の蔭にぞありける
春秋の色のほかなるあはれかな蛍ほのめく五月雨の宵
ながめつるをちの雲ゐもやよいかに行ゑも知らぬ五月雨の空
山がつの蚊遣火たつる夕暮もおもひの外にあはれならずや
色々の露を籬の床夏にをきて過ぬる村雨の空
逢坂の関の杉むら過がてにあくまでむすぶ山の井の水
あたりまで夏ぞ忘るる山陰の清水や秋のすみかなるらん
新古今集・夏
黄昏の軒端の荻にともすればほに出ぬ秋ぞ下にこととふ
夕さればならの下風袖過て夏のほかなるひぐらしの聲