和歌と俳句

新古今和歌集

雑歌

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大僧正行尊
くりかへしわが身のとがを求むれば君もなき世にめぐるなりけり

清原元輔
憂しといひて世をひたぶるに背かねば物おもひ知らぬ身とやなりなむ

よみ人しらず
背けどもあめの下をし離れねばいづくにもふる涙なりけり

女蔵人内匠
大空に照るひの色をいさめても天の下には誰か住むべき

周防内侍
かくしつつ夕べの雲となりもせばあはれかけても誰かしのばむ

前大僧正慈円
思はねど世を背かむといふ人の同じ數にやわれもなりなむ

西行法師
數ならぬ身をも心のもちがほにうかれてはまた帰り来にけり

西行法師
おろかなる心のひくにまかせてもさてさはいかに終の思ひは

西行法師
年月をいかでわが身に送りけむ昨日の人も今日はなき世に

西行法師
うけがたき人の姿にうかび出でてこりずや誰もまた沈むべき

寂蓮法師
背きてもなほ憂きものは世なりけり身を離れたる心ならねば

寂蓮法師
身の憂さを思ひ知らずはいかがせむ厭ひながらも猶過ぐすかな

前大僧正慈円
なにごとを思ふ人ぞと人問はば答へぬさきに袖ぞ濡るべき

前大僧正慈円
いたづらに過ぎにしことや歎かれむうけがたき身の夕暮の空

前大僧正慈円
うち絶えて世に経る身にはあらねどもあらぬ筋にも罪ぞ悲しき

前大僧正慈円
山里に契りし庵や荒れぬらむ待たれむとだに思はざりしを

右衛門督通具
袖に置く露をば露としのべどもなれ行く月や色を知るらむ

定家朝臣
君が代にあはずは何を玉の緒の長くとまでは惜しまれじ身を

家隆朝臣
おほかたの秋のねざめの長き夜も君をぞ祈る身をおもふとて

家隆朝臣
和歌の浦や沖つしほあひに浮かび出づるあはれわが身のよるべ知らせよ

家隆朝臣
その山とちぎらぬ月も秋風もすすむる袖に露こぼれつつ

雅経朝臣
君が代に逢へるばかりの道はあれど身をば頼まず行く末の空

俊成女
惜しむともなみだに月も心から馴れぬる袖に秋をうらみて

摂政太政大臣良経
浮き沈み来む世はさてもいかにぞと心に問ひて答へかねぬる

摂政太政大臣良経
われながら心のはてを知らぬかな捨てられぬ世のまた厭はしき

摂政太政大臣良経
おしかへし物を思ふは苦しきに知らずがほにて世をや過ぎまし

守覚法親王
ながらへて世に住むかひはなけれども憂きにかへたる命なりけり

權中納言兼宗
世を捨つる心はなほぞなかりける憂きを憂しとは思い知れども

左近中将公衡
捨てやらぬわが身そつらきさりともと思ふ心に道をまかせて

よみ人しらず
憂きながらあればある世にふるさとの夢をうつつにさましかねても

源師光
憂きながらなほ惜しまるる命かな後の世とても頼みなければ

賀茂重保
さりともとたのむ心の行く末も思へば知らぬ世にまかすらむ

荒木田長延
つくづく思へばやすき世の中を心と歎くわが身なりけり

刑部卿頼輔
かはふねののぼりわづらふ綱手縄くるしくてのみ世を渡るかな