新古今集・雑歌
背きても なほ憂きものは 世なりけり 身を離れたる 心ならねば
新古今集・雑歌
身の憂さを 思ひ知らずは いかがせむ 厭ひながらも 猶過ぐすかな
新古今集・雑歌
數ならぬ 身はなきものに なし果てつ 誰が為にかは 世をも恨みむ
新古今集・釈教
春秋も かぎらぬ花に 置く露は おくれさきだつ 恨みやはある
新古今集・釈教
立ちかへり 苦しき海に 置く網も 深きえにこそ 心引くらめ
新古今集・釈教
深き夜の 窓うつ雨に 音せぬは うき世をのきの しのぶなりけり
新勅撰集・春
いかばかり 花さきぬらん 吉野山 霞にあまる 峰のしらくも
新勅撰集・恋
くれなゐの ちしほもあかず 三室山 色にいづべき 言の葉もがな
新勅撰集・恋
をふの海の 思はぬうらに 越すしほの さてもあやなく 立つ煙かな
新勅撰集・恋
はな薄 穂にだにこひぬ わがなかの 霜おく野辺と なりにけるかな
新勅撰集・恋
うらみわび 思ひたえても やみなまし なにおもかげの 忘れがたみぞ
新勅撰集・雑歌
さてもまた いくよかはへん 世の中に うき身ひとつの おきどころかな
新勅撰集・雑歌
とくさかる きそのあさぎぬ 袖ぬれて みがかぬ露も 玉と散りけり
新勅撰集・雑歌
風吹けば 浜松が枝の たむけ草 露ばかりこそ 幣と散るらめ
続後撰集・秋
今よりの 秋の夜風や いかならむ けさだに葛の うらみがほなる
続後撰集・冬
庭の雪に けふこむ人を あはれとも ふみわけつべき 程ぞまたれし
続後撰集・恋
契りきな また忘れずよ 初瀬川 ふるかはのべの ふたもとの杉
続後撰集・恋
おのづから うらむるかたも ありなまし 身をうきものと 思ひなさずば
続後撰集・雑歌
白波の よする汀に たつ千鳥 跡さだめなき この世なりけり
続後撰集・羈旅
さとのあまの 焼きすさびたる もしほ草 またかきつめて 煙たてつる