土御門院御製
秋の色を 送りむかへて 雲の上に なれにし月も ものわすれすな
権中納言国信
てる月の くもゐの影は それながら ありし世をのみ こひわたるかな
順徳院御製
ももしきや ふるきのきばの しのぶにも 猶あまりある むかしなりけり
大納言隆親
夜もすがら 涙も雨も ふりにけり おほくの夢の 昔がたりに
春日社にて 名所十首歌人々によませ侍りけるに 権僧正円経
いそのかみ みし世をいたく しのぶまに わが身も今は ふるの中道
惟明親王
思ひいでむ かたみにもみよ ます鏡 かはらぬかげは とどまらずとも
兵部卿元良親王かしらおろして後 伊勢より申しつかはしける 女御徽子女王
かからでも くもゐの程を なげきしに みえぬ山路を 思ひやるかな
大納言師氏女
あはれとも 思はぬ山に 君しいらば ふもとの草の 露とけぬべし
前権僧正隆覚
きえやすき 命は草の 露ながら 置く方なきは うき身なりけり
堀河院中宮上総
いづかたか うき身をそむく 道ならむ わが心こそ しるべなるらめ
信生法師
まよひこし 心のやみも はれぬべし うき世はなるる 横雲の空
蓮阿法師
そむきぬと いふばかりにや 同じ世の けふは心に 遠ざかるらむ
順徳院御製
きくたびに あはれとばかり いひすてて いくよの人の 夢をみつらむ
雅成親王
ねても夢 寝ぬにも夢の ここちして うつつなる世を みぬぞかなしき
藤原光成朝臣
みるままに うつつの夢と なりゆくは さだめなき世の 昔なりけり
平政村朝臣
はかなくも 猶ながき世と 頼むかな おどろく程の 夢はみれども
祝部忠成
はかなさは おなじ夢なる よのなかに ねぬをうつつと 何おもふらむ
前参議公時母みまかりける秋 月あかく侍りける夜 大納言実家
まどろまで 夜すがら月を ながむとも 心の夢は さめずやあるらむ
返し 大納言実国
はかなさを 思ひもあへぬ 夢のうちは なげきのみこそ うつつなりけれ
皇太后宮大夫俊成女
見し人も なきが数そふ 露のよに あらましかばの 秋の夕暮
八条院高倉
はかなしと いふにもたらぬ 身のはては ただうき雲の 夕ぐれの空
権大僧都実伊
みな人の つひにはさらぬ わかれ路を さだめなき世と 誰かいひけむ
寂蓮法師
白波の よする汀に たつ千鳥 跡さだめなき この世なりけり
好忠
なみのうつ みしまの浦の うつせ貝 むなしきからに われやなりなむ
よみ人しらず
しらなみの よすればなびく 芦のねの うき世のなかを みるが悲しさ
小町
はかなくて 雲となりぬる ものならば かすまむ方を あはれともみよ
藤原顕綱朝臣
よのなかに なからむ後に 思ひいでば ありあけの月を かたみとは見よ
伊勢
さだめなき 世をきくときの 涙こそ 袖のうへなる 淵瀬なりけれ
和泉式部
緒をよはみ 絶えてみだるる 玉よりも ぬきとめがたし 人の命は
赤染衛門
ゆくゑなく 空にただよふ 浮雲に 煙をそへむ 程ぞかなしき