和歌と俳句

続後撰和歌集

年内に春立心をよみ侍ける 皇太后宮大夫俊成
年のうちに 春立ぬとや 吉野山 霞かゝれる 峰のしら雲

承暦二年内裏後番歌合に、霞をよみ侍ける 前中納言匡房
葛城や 高まの山の 朝かすみ 春とゝもにも 立にけるかな

天暦御時、麗景殿の女御の歌合に 壬生忠見
あさみどり 春はきぬとや みよしのの 山の霞の 色にみゆらん

後法性寺入道前関白、右大臣に侍ける時、家に百首歌よみ侍けるに読てつかはしける、春の始の歌
後徳大寺左大臣実定
久堅の 天のかぐ山 てらす日の けしきもけふぞ 春めきにける

はじめの春の心を 鎌倉右大臣実朝
朝霞 たてるをみれば みづのえの よしのゝ宮に 春はきにけり

正治二年、後鳥羽院に百首歌奉りける時、春の初の歌
後京極摂政前太政大臣良経
久かたの 雲ゐに春の 立ぬれば 空にぞかすむ 天のかく山

道助法親王家に五十首歌よみ侍けるに、初春の心を
参議雅経
久かたの 天の岩戸の むかしより あくればかすむ 春はきにけり

後鳥羽院御製
しがらきの とやまの空は かすめども みねのゆきげは なほや冴ゆらむ

道家
春もなほ 雪はふれれど あしひきの 山のかひより かすみたつらし

後嵯峨院御製
しきしまの やまとしまねの 朝霞 もろこしまでも 春はたつらし

後嵯峨院御製
かみよより かはらぬ春の しるしとて かすみわたれる 天のうきはし

前太政大臣実氏
わけゆけば それともみえず あさぼらけ とほきぞ春の かすみなりける

道助法親王家の五十首歌の中に、初春
西園寺入道前太政大臣公経
たちそむる かすみのころも うすけれど 春きてみゆる 四方の山の端

寛平御時、后の宮の歌合のうた よみ人しらず
氷とく 春たちくらし みよしのの よしのの滝の 音まさるなり

麗景殿の女御の屏風に 紀貫之
あさみどり 春たつ空に うぐひすの 初音をまたぬ 人はあらじな

ゆみ人しらず
冬くれて 春たちくらし あしひきの 山にも野にも うぐひすのなく

よみ人しらず
うくひすの 羽風をさむみ 春日野の かすみの衣 今はたつらむ

土御門院御製
雪のうちに 春はありとも つげなくに まづ知るものは うぐひすのこゑ

建保四年百首歌奉りける時、春歌の中に
入道前摂政左大臣道家
うちきらし なほ風さむし いそのかみ ふるの山辺の 春の淡雪

早春霞といへる心を 嘉陽門院越前
さほひめの 衣はるかぜ なほさえて かすみの袖に 淡雪ぞふる