和歌と俳句

続後撰和歌集

西行法師
かすまずば なにをか春と 思はまし まだ雪きえぬ みよしのの山

延喜十四年女四宮の屏風に 貫之
山みれば 雪ぞまだふる 春霞 いつとさだめて たちわたるらむ

天徳四年内裏歌合に 平兼盛
白妙の 雪ふるやどの 梅がえに けさうぐひすぞ 春と告ぐなる

伊勢
梅の花 香にだに匂へ 春たちて ふるあは雪に 色まがふめり

鎌倉右大臣実朝
うめの花 色はそれとも わかぬまで 風にみだれて 雪はふりつつ

建仁元年、五十首奉りける時 前中納言定家
こころあてに わくともわかじ 梅の花 ちりかふ里の 春のあは雪

建保四年内裏百番歌合に 順徳院御製
ふる雪に いづれを花と わぎもこが をる袖にほふ 春の梅が枝

参議雅経
かすみゆく 日影は空に かげろふの もゆる野原の 春のあはゆき

残雪の心を 土御門院御製
うもれ木の 春も色とや 残るらむ あさ日かくれの 谷の白雪

堀河院の御時、百首歌奉りけるに 藤原基俊
春の日の うららに照す かきねには 友まつ雪ぞ きえがてにする

久安六年、崇徳院に百首歌奉りける時、若菜をよみ侍ける 皇太后宮大夫俊成
かすみたち 雪もきえぬや みよしのの みかきか原に わかなつみてむ

土御門院
しろたへの 袖にまがひて ふる雪の きえぬ野原に わかなをぞつむ

建保四年百首歌の中に 入道前摂政左大臣道家
かすみしく 荻のやけはら ふみわけて たがため春の 若菜つむらむ

麗景殿の女御の歌合に 平兼盛
みわたせば 比良のたかねに 雪きえて 若菜つむべく 野はなりにけり

大原野の社に詣で侍りけるに 皇太后宮大夫俊成
春霞 たちにけらしな をしほ山 小松が原の うすみどりなる

法性寺入道前関白太政大臣忠通
つのくにの ながらの橋の 跡なれど なほ霞こそ たちわたりけれ

天暦の御時、御屏風に、須磨の浦に霞たちたる所をよみ侍ける 大納言延光
すまのあまの しほやくけぶり 春くれば 空に霞の なをやたつらむ

後鳥羽院御製
みわたせば なだのしほやの 夕暮に かすみによする おきつ白波

後法性寺入道前関白太政大臣兼実
たとふべき かたこそなけれ 春霞 しきつの浦の あけぼのの空

土御門院御製
いせのうみ あまのはらなる 朝霞 そらにしほやく けぶりとぞみる