和歌と俳句

藤原定家

院五十首

鳰のうみやけふより春にあふさかの山もかすみて浦風ぞ吹く

白妙の袖かとぞ思ふわかなつむみかきがはらのうめの初はな

霞より鶯さそひ吹く風にとやまもにほふはるのあけぼの

続後撰集・春
心あてにわくともわかじ梅の花ちりかふさとのはるのあわ雪

あずさゆみ磯邊の小松はるといへばかはらぬ色もいろまさりけり

百千鳥こゑものどかにかすむ日に花とはしるし四方の白雲

千代までの大宮人のかざしとや雲ゐのさくらにほひそめけむ

春霞かさなる山をたづぬとも都にしかじ花のにしきは

春やいかに月もありあけに霞みつつ梢の花は庭の白雪

年のうちにきさらぎやよひ程もなく馴れてもなれぬ花のおもかげ

桜色の袖もひとへにかはるまでうつりにけりなすぐる月日は

春くれていくかもあらぬを山風に葉末かたよりなびく下草

神まつる卯月まちいでてさく花の枝もとををにかくるしらゆふ

はるかなる初音は夢かほととぎす雲のただぢはうつつなれども

五月雨の月はつれなきみ山よりひとりもいづる郭公かな

ことわりやうちふすほども夏の夜は夕つげ鳥のあか月のこゑ

夏の日をみちゆきつかれいなむしろなびく柳にすずむ河風

かげやどす水の白波たちかへりむすべどあかぬ夏の夜の月

山めぐりそれかとぞ思ふした紅葉うちちる暮の夕立の雲

夏はつる扇に露もおきそめてみそぎすずしきかもの河風