天暦(村上院)御製
宮人の 心をよせて さくら花 をしみとどめよ ほかに散らすな
人麿
さけはかつ 散りぬる山の さくら花 こころのどかに 思ひけるかな
よみ人しらず
にほふより 心あだなる 花ゆゑに のどけき春の 風もうらみし
權中納言定頼
ふく風を いとひもはてじ 散り残る 花のしるべと けふはなりけり
崇徳院御製
ことならば さてこそ散らめ さくら花 惜しまぬ人も あらじと思へば
源師光
わび人の やどにはうゑじ さくら花 散れば歎きの 数まさりけり
俊成女
咲けば散る 花のうき世と 思ふにも なほ疎まれぬ やまざくらかな
西園寺入道前太政大臣公経
かつらぎや 花ふきわたす 春風に とだえも見えぬ 久米の岩橋
道助法親王家の五十首歌に、庭花を 前中納言定家
跡たえて 訪はれぬ庭の 苔の色も 忘るばかりに 花ぞふりしく
藤原教定朝臣
うづもれぬ こずゑぞ冬に かはりける 跡なき庭の 花の白雪
藤原信実朝臣
ふく風を いはばいはなむ さくら花 散りかふころの 春の山守
従三位行能
いたづらに 花や散るらむ 高円の 尾上の宮の 春の夕暮
建保四年百首歌奉りける時 西園寺入道前太政大臣公経
ながめこし むかしをとほく 思ふにも ふりゆく花の 色ぞしらるる
道助法親王家の五十首歌に、庭花 西園寺入道前太政大臣公経
踏めば惜し 踏までは人も 訪ひがたみ 風ふきわけよ 花の白雪
右大臣
咲きぬれば かつ散る花と しりながら なほうらめしき 春の山風
按察使良教
いかばかり 春ふく風を うらみまし 散るをならひの 花と知らずば
前大納言為家
あだになど 咲きはじめけむ いにしへの 春さへつらき 山桜かな
洞院摂政家百首歌に、花 前内大臣基家
をしまずば あだなる色も つらからじ なにしか花に 思ひそめけむ
名所歌奉りける時 前中納言定家
みよしのは 花にうつろふ 山なれば 春さへみゆき ふるさとの空
建保二年、内裏詩歌を合られけるに、河上花 前中納言定家
名取川 春の日数は あらはれて 花にぞしづむ 瀬々の埋れ木