和歌と俳句

続後撰和歌集

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

よみ人しらず
おぼつかな 何の色とも しらねども ただふかくのみ 思ひそめけむ

よみ人しらず
いもせ川 なびく玉藻の みがくれて われはこふとも 人はしらじな

人麿
いそのうへに おひたる葦の 名ををしみ 人にしられで 恋ひつつぞふる

伊勢
涙にぞ うきてながるる 水鳥の ぬれては人に みえぬものから

よみ人しらず
夏の野の 草した隠れ ゆく水の たえぬ心ある われとしらずや

寛平御時 きさいの宮の歌合のうた よみ人しらず
人しれず 下にながるる なみだ川 せきとどめなむ 影や見ゆると

権中納言定頼
奥山の 岩間の滝津 わきかへり おとにや人を ききてやみなむ

大納言忠教
人しれぬ 恋路にまどふ 心には 涙ばかりぞ さきにたちける

返し 禎子内親王家摂津
恋路には ふみだにみしと 思ふ身に 何かはかかる 涙なるらむ

権中納言国信
ながれいづる しづくに袖は 朽ちはてて おさふる方も なきぞ悲しき

左京大夫顕輔
いかにせむ 玉江の葦の したねのみ 世をへてなけど しる人のなき

俊恵法師
わが恋は 人しらぬまの うきぬなは くるしやいとど みごもりにして

鎌倉右大臣実朝
わが恋は はつ山あゐの すり衣 人こそしらね みだれてぞ思ふ

式子内親王
しるらめや 心は人に つき草の そめのみまさる おもひありとは

式子内親王
いかにせむ 岸うつ浪の かけてだに しられぬ恋に 身をくだきつつ

正三位知家
しるやとて 枕だにせぬ よひよひの こころのほかに もる涙かな

雅成親王
深き江の あしまに生ふる しらすげの しらずいくよか 思ひみだれむ

殷富門院大輔
難波女が こやにをりたく しをれ葦の しのびにもゆる ものをこそ思へ

鎌倉右大臣実朝
かくれぬの したはふ葦の みごもりに われぞもの思ふ ゆくへしらねば

源重之
あしのやの こやのしのやの しのびにも 人にしられぬ ふしをみせなむ

後京極摂政前太政大臣良経
はやせ川 なびく玉藻の 下みだれ くるしや心 みかくれてのみ

六百番歌合に 後京極摂政前太政大臣良経
しほかぜの ふきこすあまの とまひさし したに思ひの くゆるころかな

建保二年内大臣家の百首歌に 前中納言定家
わが袖に むなしき浪は かけそめつ 契もしらぬ とこの浦風

左京大夫顕輔家歌合に 清輔朝臣
いせしまや あまのたく火の ほのかにも みぬ人ゆゑに 身を焦がすかな

前大納言基良
いたづらに あまの漁火 たくなはの くるしき程を しる人もなし