刈り残す田のもの雲もむらむらにしぐれて晴るる冬は来にけり
朝霜の花野のすすきおきて行くをちかた人の袖かとぞ見る
冬の日のみじかき蘆はうらがれて浪のとまやに風ぞよわらぬ
浦千鳥方もさだめずこひてなくつまふく風の夜ぞさびしき
林あれて秋のなさけも人とはず紅葉をたきしあとの白雪
あけがたもまだ遠山のこがらしに霰ふきまぜなびくむらくも
大伴の御津の濱風ふきはらへ松とも見えじうづむ白雪
けさはまた跡かき絶ゆる水ぐきの岡のやかたの雪のふりはも
行く年よ今さへおくりむかふてふ心ながさをいかに見るらむ
続後撰集・恋
よとともに吹上の浜の潮風になびくまさごのくだけてぞ思ふ
暮るる夜は衛士のたく火をそれと見よ室の八島も都ならねば
すみのえの松のねたくやよるなみのよるとは歎く夢をだに見で
かひがねに木の葉吹きしく秋風もこころの色をえやはつたふる
龍田山ゆふつけ鳥のをりはへて我がころもでにしぐれふるころ
続後撰集・恋
わが袖にむなしき浪はかけそめつちぎりも知らぬとこの浦風
知られじな霞のしたにこがれつつ君にいぶきのさしも忍ぶと
あしのやに蛍やまがふあまやたくおもひも恋も夜は燃えつつ
続後撰集・恋
しらたまの緒絶の橋の名もつらしくだけておつる袖のなみだに
今よりのゆききも知らぬ逢坂にあはれなげきの関を据ゑつつ