和歌と俳句

室の八島 むろのやしま

栃木県惣社に在った大神神社

実方
いかでかは思ひありともしらすべき室の八島のけぶりならでは

千載集・春 俊頼
けぶりかと室の八島を見しほどにやがても空のかすみぬるかな

俊頼
川霧のけふりと見えて立つなべに波わきかへる室の八島に

俊頼
さらひする 室の八島の ことこひに 身のなりはてむ 程を知るかな

新古今集・春 清輔
朝がすみ ふかく見ゆるや 煙たつ 室のやしまの わたりなるらむ

千載集・夏 源行頼
さみだれに室の八島を見わたせばけぶりは浪の上よりぞ立つ

俊成
帰るさは烟や宿の標なる室の八島のあまのつりふね

親隆
降る雪に そことも見えぬ 東路は けぶるや室の 八島なるらむ

俊成
いかにせん室の八島に宿もがな恋のけぶりを空にまがへむ

千載集・雑歌 藤原顕方
絶えず立つ室の八島のけぶりかないかにつきせぬ思ひなるらん

新古今集・恋 藤原惟成
風吹けば室の八島のゆふけぶり心の空に立ちにけるかな

雅経
むかしより たえぬけぶりの さびしきは 室の八島の 冬の夕暮

定家
暮るる夜は衛士のたく火をそれと見よ室の八島も都ならねば

実朝
ながむれば寂しくもあるか煙立つ室の八島の雪の下もえ

続後撰集・羈旅 前中納言定家
たちそひて それともみばや おとにきく 室の八島の 深き煙を
返し 連生法師
思ひやる 室の八島を それとみば きくに煙の たちやまさらん

芭蕉
糸遊に結つきたる煙哉

静塔
ぎんなんを匂ひて拾ふ老らくか