この頃は 月こそいたく もるやまの 下葉のこらぬ 木枯しの風
ふちはせに かはるのみかは 明日香川 きのふの波ぞ けふはこほれる
筑波山 しげきこずゑや いかならむ このもかのもの 雪の下折れ
訪ふあらし 訪はぬひとめも つもりては ひとつながめの 雪の夕暮
波の上に ともなし千鳥 うちわびて 月にうらむる ありあけのこゑ
あしまとて いかにうきねの をしのこゑ まづこほりける 波の枕を
網代木や 宇治の川風 よは冴えて おのれのみ寄る 波の音かな
むかしより たえぬけぶりの さびしきは 室の八島の 冬の夕暮
あはれにも 斧の音まで 急ぐなり 松伐るる山の 年の暮がた
年暮るる 春やむかしの 春ならぬ もとの身にのみ たちかへりつつ
千代をいのる かみの三室の さかき葉は きみがためしに しげりあひにけり
おもひやる こころのはても なほ過ぎて 道ある御代の 千代のゆくすゑ
かぎりなき 世はひさかたの 空はれて てらす月日も のどかにぞすむ
きみが経む 齢をさして 大空に むれたるたづの おのがこゑごゑ
君が代は ときはのやまの 松の風 いろも変はらじ おとも絶えせじ
これやさは 人をおもひの はつけぶり なれぬながめの そらの浮雲
穂にはいでし 蘆のふし葉の したみだれ 入江の波に 朽ちは果つとも
おもひせく こころの滝の あらはれて 落つとは袖の 色にみえぬる
いかでなほ しばしも人を すみよしの あさ沢水の すゑはたゆとも
かけてだに たのめぬ波の よるよるを まつもつれなき 与謝の浦風